寒い季節になると恋しくなる日本の定番料理「おでん」。出汁がじっくり染み込んだ大根や練り物を口に運ぶと、体だけでなく心まで温まるような感覚を覚える方も多いでしょう。
コンビニのおでんも日本人にとっては馴染み深い光景ですが、実はこのおでんが日本を飛び出し、独自の進化を遂げていることをご存じでしょうか。
さらにアジア各地には、日本から伝わり独自に発展した「おでん文化」や、日本のおでんとよく似た料理が存在しています。その背景には、日本統治時代の歴史や、近年のコンビニ展開といった要素が深く関わっています。
この記事では、アジアに広がるおでんの姿を、歴史と現代のビジネス戦略という2つの視点から紹介します。
歴史が育んだ韓国・台湾の「おでん」
韓国や台湾におけるおでん文化には、日本統治時代の影響が色濃く残っています。当時、日本から持ち込まれた食文化の一つであったおでんが、時間とともに現地の人々の暮らしに入り込みました。
特に韓国では、おでんは「오뎅(オデン)」という名称で広く親しまれています。近年では、日本語由来の「オデン」という言葉の代わりに、魚と澱粉を使った加工食品を指す言葉を組み合わせた「オムク」という呼び方も普及しています。
オムクは、魚のすり身を薄い板状にした揚げかまぼこです。それを蛇腹状に折りたたんだ状態で串に刺し、昆布やいりこでとった出汁で煮込みます。主に屋台(ポジャンマチャ)で売られており、今では韓国の冬の風物詩となっています。
また、片手で串を持ち、もう一方の手でカップに入れたおでんのスープを飲むというのが韓国スタイルです。
台湾にも、日本統治時代におでんが伝わりました。台湾におけるおでんの呼び名はさまざまで、日本語の「おでん」が変化した「黑輪(オーレン/オレン)」、天ぷらが語源の「甜不辣(ティエンブラ)」、そして「関東煮(グァンドンジュー)」などがあります。
台湾のおでんは、日本のものと鍋の様子は似ていますが、食べ方に特徴があります。つゆと一緒に食べるだけでなく、汁(つゆ)なしで「甜辣醤(テンラージャン)」と呼ばれるケチャップ・砂糖・唐辛子を混ぜた甘辛いソースをかけて食べるスタイルが一般的です。
現在では日本の味を再現した「日式関東煮」と、現地の文化に溶け込んだ台湾式のおでんが共存しており、非常に層の厚い食文化を形成しています。
コンビニ戦略が拓いた中国・東南アジアの「おでん」
おでんに歴史的背景を持つ韓国・台湾とは対照的に、中国や東南アジア諸国では1990年代後半以降の日系コンビニエンスストアの進出とともに、おでんが「新しいスタイルの軽食」として知られるようになりました。
日系コンビニでの普及の起点として、1990年代に上海のローソンが試験的に販売したと紹介されることがあります。その後セブン‐イレブンやファミリーマートを含めた日本のコンビニ各社が各国に出店し、レジカウンター付近に並ぶおでんは、新しい食のスタイルとして注目されてきたのです。
さらに、日本の出汁をベースにしながらも、現地の嗜好に合わせたアレンジが施されている点も特徴です。特に、麻辣(マーラー)味のスープや香辛料を効かせた味付けは、中国ならではです。辛味や刺激を好む食文化と融合することで、違和感なく定着しています。
東南アジアでも同様に、コンビニ各社が独自にアレンジしたおでんを展開しており、その中でもマレーシアでは「テイクアウト」のスナックとして一年中食べられるのが特徴です。
「ローカライズ」の柔軟性がおでんの強み
おでんがアジア各地で受け入れられている最大の理由の一つが、そのローカライズの柔軟性にあります。具材や出汁、味付けを変えることで現地の食文化や宗教、生活スタイルに自然に溶け込むことができるのです。ここでは、代表的な例を紹介します。
多彩なスープのバリエーション
まずは、スープを現地の好みの味に変えるバリエーションの豊かさです。
マレーシアやタイなどの東南アジアでは、日本の伝統的な出汁(オリジナル)に加えて、現地の食文化を代表する「トムヤム」味のスープが提供されています。暑い国でも食欲をそそる味として、一年を通じて多くのローカル客に支持されています。
インドネシアのローソンでも韓国風の辛いスープが人気を博しているほか、中国では前述の通り麻辣味が主流であり、おでんはもはや「辛い煮込み料理」としての顔も持っています。
現地の練り物をおでんとして
おでんの中心となる「練り物」は、アジア各国で古くから親しまれてきた食材です。魚のすり身を加工した練り物は保存性が高く、調理もしやすいため各地で独自の発展を遂げてきました。
そのため、出汁文化を持つ日本のおでんも、練り物という共通点から違和感なく受け入れられやすいのです。
たとえば、マレーシアのおでんは、宗教や食文化への配慮から豚肉を使わず、練り物中心の具材構成となっています。マレーシアではフィッシュケーキと呼ばれる練り物を、鍋料理や炒め麺に多用する食文化があり、このフィッシュケーキはおでんの具材としても非常に馴染み深いです。
一方のインドネシアのおでんには「豆腐バソイカン(魚のすり身入り豆腐)」や、ソーセージを練り物で包んだもの、さらにはサーモン味の練り物など、独自の具材が豊富に揃っています。現地の嗜好に合わせたチーズ入りの練り物などは非常に高い人気を誇ります。
アジア各国で見られるおでんに似た料理
おでんがアジアで受け入れやすかった背景には、もともと各国に「練り物をスープで煮る、あるいはソースで食べる」など、似た料理が存在していたことが挙げられます。ここでは、各国が持つおでんに似た独自の料理を紹介しましょう。
醸豆腐(ヨントーフ)/シンガポール・マレーシア
醸豆腐は、魚や肉のすり身を豆腐や野菜に詰めてスープで煮込んだ料理です。お店では、客が好きな具材を自分で選んで碗に入れ、店員が澄んだスープや麺を加えて提供するスタイルが多く、コンビニおでんのセルフ形式に通じるものがあります。
ロロ(Lok-lok)/マレーシア
ロロは、練り物や野菜を串に刺し、共同の鍋でゆでてからソースをつけて食べる屋台料理です。おでん同様、多種多様な具材を楽しむスタイルが定着しています。家庭では、串に刺さずお皿に盛り付けて食べるケースもあります。
チュアンキ(Cuanki)/インドネシア
チュアンキは、牛肉のすり身から作られた団子(バクソ)や揚げ豆腐を煮込んだ料理で、見た目や雰囲気がおでんに非常によく似ています。インドネシア人には、雨の日や少し涼しい時期に熱々のチュアンキを食べる習慣があります。
マカオ風カレーおでん/マカオ
好きな具材を選んでゆでてもらい、特製のカレーソースをかけて食べるローカルフードです。マカオには「おでん屋横丁」と呼ばれる場所もあり、観光客や地元住民に親しまれています。
まとめ
おでんは、日本の伝統的な料理でありながら、アジアという広い地域で多様な姿に変化してきました。ある地域では歴史的背景によってもたらされて食文化の一部となり、またある地域では現代のコンビニ戦略によって革新的なファストフードとして花開きました。
これらの背景には、練り物文化というアジア圏の共通点と、味や提供スタイルを柔軟に変えられるというおでんの特性があります。どんな味付けにも寄り添える「包容力」こそが、おでんがアジアという多様な文化圏で愛される最大の理由といえます。
おでんは今後も、アジア各国の屋台やコンビニのレジ横で、それぞれの文化に寄り添いながら親しまれていくことでしょう。